子どもの足を速くする方法!運動会までに

我が子の、活躍を楽しみにしていると思います。すこしでも早い方がいいでね。

 

正しいスタートの姿勢で大事なのは上体の角度。起きすぎるのは力が入り切らずNG(左)、前に出した足の腰骨に手を当てると挟めるくらいに前傾するのがOK(右)【写真:伊藤友広氏】
THE ANSWER

足が遅い子と速い子の差は「全力」にあり…元トップスプリンターが教える原因と対策

秋の運動会シーズンが迫ってきた。子供たちは徒競走で一等賞を狙い、熱戦を繰り広げる。保護者にとっては愛息、愛娘の晴れ舞台。少しでもいい順位で走ってほしいもの。とはいえ、「うちの子は足が遅いので……」と諦め気味のお父さん、お母さんも少なくない。では、子供はどうしたら速く走れるのか。前回特集した「お父さんが運動会で転ばず走る方法」に続き、陸上の元トップ選手が今からでも間に合う「うちの子の足を速くする方法」を紹介する。

そもそも、足が遅い子は、なぜ遅いのか。速い子との差はどこにあるのか。前提を理解する必要がある。

200メートル障害アジア最高記録保持者で、スプリント指導のプロ組織「0.01」を主催する秋本真吾氏は「高学年、低学年で速く走れない子の共通しているのは、足を地面に接地している時間が長いことです。速く走れない子はかかとから地面についてベタッと走ってしまいます。反対に速い子は地面に接地している時間が短いです」という。

確かに、よく見かけるのは跳ねるような躍動感がなく、体が進んでいかないことだ。では、なぜ遅い子は接地時間が長くなってしまう? 秋本氏とともに「0.01」を手掛けるアテネ五輪1600メートルリレー代表の伊藤友広氏は、こう説明する。

「足が遅い子は力が出せていないことが多いです。そもそも力の出し方がわからない。遅い子は接地時間が長くなる場合が多い。長く足をついているから力を出せているかというと、そうでもない。ベターンとした力感がない状態で走ってしまう。反対に速い子は全力の出し方がわかっているし、接地時間も短い。低学年のうちはフォームがめちゃくちゃでも、全力を出せるだけで差がつくことが多いです」

実際に小学生世代のスペシャリストとして駆けっこ教室で指導している伊藤氏。「特に、低学年は『50メートルを全力で走ろうね』と言っても、ジョギングと大差ないようなふわふわした走りになるケースがあります。ボールを投げる、蹴る際にもインパクトの瞬間に力を入れるはずです。身体をどのように動かせば力を出せるのかを体感し、身体で理解することが大事です」と力説した。

小学生世代にとって「全力」で走ることは必須。それを踏まえ、「子供の全力の引き出す方法」はあるのだろうか。

200メートルハードルアジア最高記録保持者の秋本真吾氏(左)とアテネ五輪4×400メートルリレー日本代表の伊藤友広氏(右)【写真:編集部】

「全力」を引き出すのは相撲? 走りに共通する意外な理由とは…

伊藤氏は、まず前回のお父さん編で紹介した「ジャンプ」を勧める。トップスプリンターの接地時間は0.1秒。これはピョンピョンと連続ジャンプする接地時間と変わらない。「0.1秒」の感覚を体で覚えると、走りにリズムが生まれやすい。この時、かかとをつけずに取り組むことがポイントだ。

そして、もう一つ、意外な練習法を提案する。「お父さんと相撲を取ってみることです」と話した。いったい、なぜ?

「問題は、今の子供たちが日常的に思い切り力を出すという場面が少ないことだと思います。相撲は手だけで押すのではなく、足で踏ん張って押していく。それをお父さんという子供にとっては負荷がかかる相手に全力を出してみるということを実践、体験する。全力を体感しやすい練習だと思います」

上述した「全力」問題を解決する目的のみならず、相撲の姿勢は走りに共通する部分がある。

「例えば、突っ立った姿勢では力が入らないので、相手を押せない。スタートも自分がしっかりと前足でぐっと体を押し出せるポジションがある。その形を作りにいくアプローチ。少し低いポジションで膝が曲がって、かかとではなく前足部で力を入れて押す。走りに共通する、いいパワーポジションを取りやすくなるというメリットもあります」

第一歩はしっかりと力が入りやすい体の構えを覚えること。ここからステップアップしていく。

「力が出るようになってきたら、走りのリズムに近い感じでドンドンと短い発揮時間で押してみる。順序でいえば、力を出せているか、パワーポジションが取れているか、低い姿勢で足で押せているかをチェックすること。走りの技術を整える以前の準備ですが、それができているできていないで、かなり違ってきます」

子供の出力アップには「けんけん」「自転車」も効果あり

秋本氏は「相撲」について「小学生の時に足が速かったけど、5年生で学校内の相撲大会に出て、体が小さくて細かったのにすごく大きい子の次の準優勝。小さくても、ぶつかった時の力の出し方がわかっていたのかな」と体験談を披露。さらに、そのほかの練習法についても紹介する。

「けんけんです。片足立ちで自分の体を支える連続運動。押し合いの相撲から次の走りにつなげる。速く走れない子は片足で地面について膝が曲がって潰れて、跳んでまた潰れる。一方で、速い子は姿勢が崩れずにポンポンと弾むように前に進んでいきます。足をついた時に潰れない子は押し合いをしても強い子。力を瞬間的に発揮するいい練習になります」

ポイントはつま先だけではなく、平面で着地すること。左右10回ずつ練習していくと効果が望める。また、自転車を使ったトレーニングもある。

「陸上選手にはパワーマックスという負荷をかけて思い切り自転車をこぐメニューを行うことがあります。全力を出すという意味では、自転車のスタンドを上げて思い切りこぐということも出力を上げるためにはありだと思います」

まだ運動経験の少ない小学生、特に低学年層にとって「全力」を出すのが、走り強化への最短の近道。「相撲」「けんけん」「自転車」、いずれも共通しているのは、子供の出力を上げるための練習であることだ。その前提を理解し、取り組んでいくことが望ましいだろう。

【「全力」練習法まとめ】

・相撲で「全力」の感覚を引き出す
・パワーポジションの姿勢を理解する
・力が出せるようになれば短いリズムで押す
・けんけんで片足で体を支える練習
・平面で接地して左右10回で効果あり
・自転車の全力こぎで出力アップも

「遅れたら挽回すればいい」は誤り…スタートがレース全体に影響する理由

では、走りの実践に入っていく。両氏が声をそろえて強調したのは「スタート」だ。

秋本氏「サッカーをやっている子は、半身になって手と足が一緒になり、つま先が横を向いて構えます。野球をやっている子は盗塁するリードの構えのように真横を向いて構えます。スタートする瞬間は身体も足も正面に切り替えないと進まないので、その初期反応だけでワンテンポ遅れてしまいます」

伊藤氏「反応の面では、モーションが大きくなって無駄な動きが生まれる。加えてパワーの面でも問題。股関節が(前後に)開いてない状態。そういう構えでは、そもそも力が入らない。あとは角度。上体が立ち過ぎていたり、折れていたりすることが多い。これはどちらもパワーが入りづらい」

とはいえ、スタートはスタートでしかない。ほんの一瞬の差なら走力でカバーすればいいのでは? そう思うが、伊藤氏は「実はスタートが出遅れるだけで、レース全体に影響します」と言い、解説する。

「まず、姿勢の問題。スタートの構えで姿勢が崩れていると、走り出した後もだいたい崩れたままの状態が続き、その後の走りもスピードに乗れないことが多いです。また、スタートで出遅れてスピードがつかないとすると、最高速度が上がりきらないことが考えられます。小学生のトップスピード出現地点は20~30メートル地点です。大人は60メートル地点付近。小さい子であればあるほど、最初に一気にスピードに乗せる必要があると言えます」

すなわち、遅れたら挽回すればいい、では済まないということだ。

「出遅れた原因に走りが引きずられてしまいます。そもそも正しい姿勢が取れないと、出遅れることもマイナスだし、その後の姿勢も悪いためにスピードが上がらないこともマイナスです。逆に良い姿勢が取れていれば、スタートも出られるし、加速もしていける。悪い状態でスタートすることのデメリットがすごく大きいということは一般的にあまり理解されていないかもしれません」

スタートが子供の走りにおいて、いかに重要かは理解できた。では、どうすれば「いいスタート」を切れるのか。

正しいスタートの姿勢で大事なのは上体の角度。起きすぎるのは力が入り切らずNG(左)、前に出した足の腰骨に手を当てると挟めるくらいに前傾するのがOK(右)【写真:伊藤友広氏】

正しいスタートの姿勢の取り方は? 大事なのは上体の角度

伊藤氏が正しいスタートの姿勢を解説する。

「まず、つま先はまっすぐ前に向ける。次に足幅の確認。前後に足を広げ、しゃがんだ時に後ろ足の膝が前足の靴の真ん中くらいにあるとちょうどいい。そのまま足を動かずに立ち上がる。そして、大事なのは上体の角度。前足の付け根の腰骨(腸骨)の前に手を水平に置き、背筋を伸ばしたまま体を前に倒す。この時、手を挟んだくらいの角度が最適です」

この順序を踏めば、理想的なスタート姿勢がとれやすい。その上で「前足で地面を押して、後ろ足は前に持ってくるだけ。相撲で押した時と同じように前足で強く飛び出すことが大事」と説明。本番は次から次へとスタートが切られ、ゆっくりとスタートの構えを確認できる時間がない。練習からぱっと正しい姿勢が取れるように練習しておくことが理想だろう。

こうして「全力」の意識を理解し、正しい姿勢でスタートしてしまえば、あとは意識することは何もないと両氏は話す。

伊藤氏「何を意識すればいいかというと『全力を出そう』ということ。走りの動作は本番前に練習して準備で整えておく。ここで定着していれば、本番は全力を出すだけです。練習で整っていないなら、本番もそのまま。本番だけ意識して本番だけ成功することはないと思います」

秋本氏「ヨーイドンでスタートを切ったら、何かを意識するということは難しいと思います。練習していることを出し切る、ベストを尽くすとしかいえないかなと。練習以上のものは本番で絶対に出ないので。小学生に本番で緊張しないためには? とよく聞かれるんですが、ちゃんとした準備ができていたら緊張しないと思っています。

速く走るために重要となるのは「全力」と「スタート」。今から練習を始めても十分に効果は見込める。「うちの子は足が遅いから……」で諦めない。一等賞の夢は、努力次第で近づいてくる。

(次回は番外編。はだし走りの良しあし、スタートで前に出すべき足、コーナーをキレイに回るコツなど、素朴な疑問に回答)

◇伊藤 友広(いとう・ともひろ)

高校時代に国体少年男子A400mで優勝。アジアジュニア選手権日本代表で400m5位、4×400mリレーはアンカーを務め優勝。国体成年男子400mで優勝。アテネ五輪では4×400mリレーに出場。第3走者で日本過去最高の4位入賞に貢献。国際陸上競技連盟公認指導者資格(キッズ・ユース対象)を取得。現在はスプリント指導のプロ組織「0.01」を秋本真吾氏とともに主催する。
http://001sprint.com/

◇秋本 真吾(あきもと・しんご)

2012年まで400mハードルの陸上選手として活躍。オリンピック強化指定選手にも選出。200mハードルアジア最高記録、日本最高記録、学生最高記録保持者。13年からスプリントコーチとしてプロ野球球団、Jリーグクラブ、アメリカンフットボール、ラグビーなど多くのスポーツ選手に走り方の指導を展開。地元、福島・大熊町のために被災地支援団体「ARIGATO OKUMA」を立ち上げ、大熊町の子供たちへのスポーツ支援、キャリア支援を行う。15年にNIKE RUNNING EXPERT / NIKE RUNNING COACHに就任。現在は「0.01」を伊藤友広氏とともに主催する。
http://001sprint.com/

ジ・アンサー編集部●文 text by The Answer

(出典 news.nicovideo.jp)

 

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