飛行機の速度はもう上がらない、X-15による不滅の記録

地球の圏内でけなら十分なのでは、人間が耐えられる限界なのかもしれません。

与圧服を着用したウィリアム・J・ナイトとX-15。7274km/hという不滅の記録を打ち立てた(画像:NASA)。
乗りものニュース

主翼を持った有人飛行機において、7274km/hという速度が記録されてから50年が経過しました。この記録はどのように樹立され、そしてなぜ半世紀にわたり破られていないのでしょうか。

半世紀不変の記録は音速の約7倍2017年10月3日(火)、主翼の揚力によって飛翔する「飛行機」による世界速度記録7274km/h(マッハ6.7)の樹立から50周年を迎えました。この記録はノースアメリカンX-15実験機を操縦するアメリカ人テストパイロット、ウィリアム・J・ナイトよって達成されたものです。

X-15はマッハ5以上といったハイパーソニック(極超音速)研究プログラムとして開発された、まさに速度記録へ挑戦するという目的のためだけに開発された実験機であり、エンジンはなんとロケットを搭載しました。機体はロケットエンジンと燃料の無水アンモニアおよび酸化剤の液体酸素タンクに、申し訳程度の主翼やパイロットのための生存空間、そして主降着装置は「そり」を取り付けただけというシンプルな構造で、まさに高く速く飛ぶ以外のすべてを捨て去ったといってもよい設計でした。

X-15は自力で離陸することができなかったため、B-52戦略爆撃機を改造した空中発射母機から発進、約9トンの燃料と酸化剤をわずか120秒間で消費しつくし上昇・加速。そして最高高度・速度に達したあとは極めて性能の悪いグライダーとなって乾湖(干上がった湖)へ滑り込むように着陸します。

宇宙飛行士認定のパイロットも最高速度記録7274km/hは188回目の飛行において達成され、この時高度は約30kmでした。また上昇高度記録も樹立しており、1963(昭和38)年に実施された91回目の飛行においては107.8kmに到達。宇宙空間は、アメリカ空軍においては高度80㎞以上とされているので、X-15を操縦したパイロット12人のうち8人は宇宙飛行士として認められています。また残る4人の宇宙空間にまでは達しなかったうちのひとりは、のちに月面着陸を果たすニール・アームストロングでした。

飛行機の歴史は1903(明治36)年のライト兄弟による発明以降、果てしない「より速く」「より高く」の競争の歴史でした。そしてその終着点は意外にも早く訪れ、X-15の速度記録はその後更新されることはありませんでした。

速度記録への挑戦は、それだけで人を興奮させる魅力を秘めますが、実際問題としてお金がかかりすぎることや、これ以上の速度を出すには空気との断熱圧縮によって発生する加熱が大きな問題となること、そして何より旅客機や戦闘機といった実用機の速度性能はせいぜいマッハ1前後で停滞してしまっており、7000km/h以上といった速度は大気圏内に戻ってくる宇宙船以外は無関係であることからも、飛行機による速度記録は実に半世紀にわたって停滞しています。

技術的には当時をしのぐも…?この先X-15を上回る速度の飛行機は誕生するでしょうか。2017年9月には東京からハワイまで30分という、度肝を抜くような旅客機のコンセプト「スペースX」が発表されました。平均時速は1万km/hを上回るという野心的な計画ですが、これは言ってみれば弾道ミサイルの弾頭部を客室にしたようなものであって飛行機ではありませんから、仮に実用化されてもX-15の記録は不変です。

ドローンに限れば、スクラムジェットエンジンを搭載するX-43「ハイパーX」が2004年にマッハ9.68(11265km/h)を達成しており、また同年には民間の宇宙船スペースシップワンが有人飛行機でありながらX-15を上回る高度112kmへ到達しています。

X-15を上回る速度性能を持つ飛行機を開発することは、現時点において技術的に不可能ではないかもしれません。しかしそれが実現する見込みはいまのところなく、X-15の偉大な速度記録は21世紀中も、当面は王位の座にあり続けることになりそうです。

【写真】アポロ11号のアームストロング船長もX-15に

(出典 news.nicovideo.jp)

 

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