空の移動は変わる、加速する電気飛行機

どんどんと進化している、色んなものがかわりつつある。既に米国では、空のウーバー化(シェアリングエコノミーの活用)が進んでいる

2017年9月、英国の格安航空会社であるEasyjet(イージージェット)が、10年以内に電気旅客機を運航する計画を明らかにした。

 

電気飛行機の開発を行う米国のベンチャー企業Wright Electric(ライト・エレクトリック)と組み、短距離路線向け電気旅客機を開発する。米Boeing(ボーイング)や米航空宇宙局(NASA)出身者が設立した企業で、既に小型機を試作しているという(飛行機の分類方法としては「電動飛行機」の方が適切に思えるが「電気飛行機」との記述が大半なので、本稿もそれにならった)。

航空機メーカーも動き出している。ボーイングは、ライト・エレクトリックと同様の航空機ベンチャーであるZunum Aero(ズーナムエアロ)に出資しており、短距離用の電気旅客機の開発を支援しているほか、仏Airbus(エアバス)も開発を進めている。

9月にスイスで行われた航空ショーでは、独Siemens(シーメンス)が電動小型プロペラ機のデモ飛行を行い観客を沸かせた。ちなみにシーメンスはエアバスと共同で、モーターと従来のエンジンを組み合わせたハイブリット推進システムを開発する方針を明らかにしている。

電気飛行機のアイデアは昔から存在したが、電気自動車(EV)と同様、バッテリー容量の問題があり、なかなか実用されなかった。だが、ここ数年でバッテリーの技術が格段に進歩したことから、現実的な運用が視野に入り始めたのだ。模型飛行機の分野ではかなり前からモーター駆動が普及しており、いずれ実機の世界も電動化されるとの予想は多かったが、ここに来て、実機のプロジェクトが盛り上がっているのは、やはり全世界的なEVシフトと無関係ではないだろう。

電気飛行機の最大のウリは、二酸化炭素などを排出しないことだが、航空機によるエネルギー消費は、全体の割合からするとそれほど多くない。例えば日本の石油消費量のうちジェット燃料が占める割合はわずか3%である。地球環境全体の話からすると自動車のガソリン消費の方が圧倒的に多く、飛行機の電動化がそれほど大きな効果をもたらすわけではない。

だが飛行機の電動化には別な意味での潜在力がある。それは低騒音とメンテナンスの容易さである。現実にはこの2つの要素が航空業界に決定的な変化をもたらすことになる。

“空のウーバー化”が着々と進む

航空機はジェットエンジンはもちろんのこと、レシプロエンジン(ピストンエンジン)でも大きな騒音が発生する。このため、航空機の運用には多くの制約が伴うことになり、これがタクシーのような柔軟な運行の妨げになってきた。だが電気飛行機であれば、騒音の問題をほぼゼロにすることも不可能ではない。

これに加えて、電気飛行機はエンジンの構造がシンプルなのでメンテナンスの負荷が軽い。場合によっては運航コストを大幅に削減できる可能性があり、自動車のEV化と同じインパクトを航空業界にもたらすことになる。もし、安価な小型電気旅客機の開発に成功すれば、短距離路線において柔軟に航空機を運航することが可能となり、航空輸送の世界は一変することになるだろう。

既に米国では、空のウーバー化(シェアリングエコノミーの活用)がかなりのレベルまで進んでいる。米国では富裕層や企業のマネジメント層などを中心に、定期便の旅客機ではなくプライベートジェットを利用するケースが多い。既に2万機を超えるプライベートジェットが米国内で運行しており、実際、米国の大都市近郊にあるプライベートジェットの飛行場に行くと、ひっきりなしに航空機が離着陸する光景を目にすることができる。

日本ではプライベートジェットというと、超富裕層が利用するものというイメージが強いが、米国では必ずしもそうとは限らない。プライベートジェットを自ら所有し、自分専用に運行している人はごくわずかであり、多くのプライベートジェットのオーナーは、利用しないときには飛行機を時間単位で貸し出し、そこからのレンタル収入で高額な維持費の一部を賄っている。ファンドやリース会社が運用するケースや、ホテルのタイムシェアのような形で複数人が所有する形態も多い。

●近距離航空輸送の市場が爆発的に拡大する?

つまり、プライベートジェットも実質的にレンタカーやカーシェアのような状況となっている。利用者の多くは時間単位での支払いであり、この形態とウーバー型のビジネスは親和性が高い。

既に多くのプライベートジェットの予約サイトがあり、日程、出発地、目的地、人数などを入力すると、該当するスケジュールで飛べるプライベートジェットの一覧が表示される。機材や価格などから、好みのものを選択して予約するだけでよい。日程や移動する場所にもよるが、条件がうまく合致すれば、1時間750〜1000ドルといった超低価格でプライベートジェットを利用することも可能だ。

もしこの分野に、圧倒的に安価な電気飛行機が登場してきた場合、近距離航空輸送の市場は爆発的に拡大する可能性がある。タクシーやハイヤーの予約サービスと、航空機の予約サービスは、おそらくシームレスにつながることになるだろう。AI(人工知能)を活用し、目的地を告げれば、もっとも効率がよく低価格なルートが提示されるはずである。その時、利用者はタクシーに乗るのと同じような感覚で、プライベート機を利用するようになるかもしれない。

(加谷珪一)

(出典 news.nicovideo.jp)

 

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