月面探査に挑戦するアノ人たちに月で炊き立てご飯は食べられるか聞いてみた

炊き立てご飯は本当においしいですね。

いつでもどこでも宇宙でも。おいしいものが食べたい。

将来、宇宙で暮らすようになったとき、人間はどんな食事をしているのだろう? 普通に炊きたてのご飯とか食べられるのかな…? 最近そんなことをよく考えていました。

10月には月の地下に巨大な洞窟が確認されたことが発表されるなど、宇宙に関するトピックがホットだなぁなんて思いながら記事ネタを探していたときにふと見つけた「宇宙を人類の生活圏にする」という言葉がきっかけでした。

これは、民間組織による人類初の月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」に日本からエントリーしているチーム「HAKUTO」を運営する「株式会社ispace」が掲げるビジョンなのですが、この言葉を見た瞬間に「あぁ、宇宙での生活ってもう現実味を帯びてきていることなんだ」と感じまして、それからというもの「宇宙で生活するって…どんなところに住んで、どんな服を着て、どんなものを食べているのだろう?」という妄想がぐるぐる回ってしばらく収まらない始末。

興味ないですか? 将来の宇宙での生活。これはもう「HAKUTO」に話を聞きに行くしかない!と思った僕は、突撃取材を敢行したのでした。

Photo: 小原啓樹

突然の取材の申し込みにもかかわらず快諾していただき、コミュニケーションマネージャーの秋元衆平さん(写真左)と事業開発担当の森智也さん(写真右)が対応してくださいました。ありがとうございます!

月で炊きたてのご飯を食べるには

── 「宇宙を人類の生活圏にする」というビジョンを拝見して妄想が止まらなくなりました。僕は食いしん坊なので、中でも将来、宇宙でどんなものが食べられるのかが一番気になるのですが、例えば、月でいま僕たちが食べているような炊きたてのご飯が食べられる可能性はありますか?

秋元さん:はい。それなりの環境を整えなければならないですが、条件がそろえば可能だと思いますよ。

森さん:地球と月で大きく異なる条件は3つありまして、1つ目に重力が地球の1/6であること、2つ目に表面温度が夜はマイナス170℃で昼は100℃くらいになること、3つ目に放射線が降り注いでいることです。温度と放射線は基地を作ることで影響をある程度小さくできると思うので、一番影響が大きいのは重力ですね。炊飯器に米を入れて、水を注いで、混ぜるという工程がすべて重力に依存したものなので、炊飯器の形などは地球とはまったく異なったものになると思います。

── なるほど。1/6の重力に合わせた構造や工程を考えなければならないわけですね。具体的にはどういったことが考えられますか?

Photo: 小原啓樹

森さん:地球と同じ炊飯器で作業をすると、米を混ぜるときに飛び散ってしまうと思うんですよね。考えられるのは、球体に近いような炊飯器の中に米と水を注いで、何かしらの機械を使って中を自動的にかき混ぜるとか。あとは、水を切るときに重力に頼っていると時間がかかってしまうので、気圧の変化などを利用して強制的に排出する仕組みを設けたり、ですかね。ただのアイディアですが(笑)。

── いやいやいや、かなり興味深いです。その水なのですが、月には水が存在していると考えられているのですか?

秋元さん:まだだれも肉眼で確認できたわけではなく、あくまでも無人の衛星が月の表面に探査機の一部を衝突させて跳ね返ってきた粒子をセンサーで観測した、という段階ですが。おそらく存在するだろうと。月に水資源があるとしたらいろいろな可能性が広がるので世界的にも注目されています。われわれもそこに可能性を感じていて、今後も取り組んでいきたいと考えています。

── なるほど〜。また、炊飯器を動かすにはエネルギーが必要になると思いますが、やはり電力を使うのでしょうか?

森さん:そうなると思います。いわゆる太陽光発電を行うことになるでしょう。月は昼が2週間続くので、その間は太陽光パネルから電気を供給できます。また、リチウムイオンなどのバッテリーに蓄電して、それを使うことになると思います。月は大気がなく太陽光が直接降り注ぐため、効率的に光をエネルギーに変換することが可能なんですよ。

── おぉ〜月面に敷き詰められた太陽光パネルの画が目に浮かびます。ちなみに、「HAKUTO」が月に送り込むローバー「SORATO」にも車体側面にソーラーパネルが付いていますが、これはどのくらいの発電能力があるのですか?

Photo: au

秋元さん:「SORATO」の役目は「500m以上移動する・動画や静止画を撮る・そのデータを送る」の3つなのでそれほど大きくないです。最大約20Wですね。

── 例えば、炊飯器の消費電力が1,400Whだったとしたら「SORATO」70台で動かせるということでしょうか?

Photo: au

秋元さん:うーん、そうですね。「SORATO」を純粋な発電機とみなして、その間それ以外に使わないということであれば、単純計算ならばそうなります。

── 実際はそんなに単純な話ではないと思いますが(笑)。でもすごくイメージが湧きました!

ウサギのように月で餅をついてみたい

Image: Shutterstock

── 月で米が炊けるとなると、次にやってみたいのが餅つきです。「月ではウサギが餅をついている」という、あの言い伝えを思い出しながら本当に餅がつけたら最高だろうなぁと。

秋元さん:これもできると思いますよ。むしろ作業としては楽なんじゃないでしょうか。重力が1/6なので。

森さん:逆に地球での伝統的な餅つきの感覚を再現するためには杵を6倍の重さにすればいいわけですね。でも、ついた瞬間に反動で自分が浮き上がってしまうでしょうね(笑)。食べやすさでいうと、茶碗によそったご飯よりは餅の方が月では食べやすいと思います。重力が小さいので、ご飯は散らばってしまいそう。あくまでも想像ですが。

── でも確かにそうなりそうですね(笑)。現実問題として、食べやすさや輸送のことを考えると月での食事はどんなものになるのでしょうか。やはりチューブに入った宇宙食のような形になるのでしょうか。

森さん:将来の宇宙への輸送コストがどのくらいになっているか分からないですけど、輸送コストを縮めるために地球から持っていくとしたら宇宙食のようにすごく軽い形で持っていかなくてはならないと思います。一方で、将来的には月でも作物を栽培することが可能になると思うんです。人間というのはおいしいものを食べていきたい生き物なので、食を豊かにするために、できるだけクリエイティブに、簡単でおいしいものが作れるように工夫すると思いますよ。

── うわ〜それは夢が広がるなぁ。ところで、先ほどウサギの話が出ましたが、「HAKUTO」の名の由来は「白兎」だそうですね。これも月にちなんだところでネーミングされたのですか?

秋元さん:プロトタイプのローバーの名称を募集したことがあって、そこで選ばれたのが「HAKUTO」という名前でした。そのころわれわれはオランダのチームの日本支部として「White Label Space Japan」という名前で活動していたのですが、オランダのチームが活動できなくなったため日本でチームの権利を引き取ることになり、そのときにチーム名を「HAKUTO」に改めたのです。日本人にとって「月にウサギがいる」という話はなじみがあるし、世界に戦いを挑む日本チームとしてよい名前なのではないかということで。

── すごくいい名前だと思います。公募されたメッセージや画像をディスクに収めて「SORATO」に載せて月へ送る「1億人のムーンチャレンジ」企画でも、ジャパン・ホワイトというシロウサギと、ハクトモチというもち米のゲノムデータを一緒に収めるそうですね。

秋元さん:はい。このディスクは「SORATO」とともに月に置いてくるわけですが、20年後、30年後に宇宙飛行士になった人たちが「SORATO」を見つけてくれて、中を開けるといろんなデータが入っているというタイムカプセルのような意味合いがあります。

食事写真を月からSNSにアップできる?

── いまの感覚でいうと、炊きたてのご飯や、つきたての餅ができあがったら間違いなくSNSにシェアしたくなるところですが、そんなこと月からもできますか?

Photo: 小原啓樹

秋元さん:地球にデータを送ることは間違いなく可能ですね。人間が暮らすような状態になっているのであれば、ある程度、大容量の通信も可能になっていると思います。

── その時代にいまのSNSがどんな形になっているか分からないですが、写真のアップはできそうですね。「SORATO」からも画像を送る予定になっているということは、いま現在でも地球にデータを送ることは可能なのですよね。どういう手順で送られるのですか?

秋元さん:まず「SORATO」から着陸船にデータを送ります。着陸船が親機で「SORATO」が子機のようなものですね。着陸船から地球への送信はダイレクトです。電波は光と同じ速さなので秒速30万キロで飛びます。月までの距離は38万キロなので、月と地球の間だと片道1秒ちょっとくらいです。

── 月からはダイレクトに届くのですね。なんだか壮大なロマンを感じます…。「SORATO」から無事に画像が届き、ミッションが成功することを祈ってます!

「SORATO」の実物を見た

いやぁ、興味深い話がたくさん聞けました。月の小さい重力に合わせて、ご飯を炊くのにも炊飯器の構造や作業の手順が変わるであろうことや、餅つきが楽になるのではないかといったことは、考えてみれば当然なのですが、なかなかそこまで思いが至らないもので、目から鱗という感じでした。

加えて今回、なんと「SORATO」の実物も見ることができたのです。

Photo: 小原啓樹

こちら「ispace」のクリーンルームに置かれている「SORATO」のボディです。紛れもなく月へ向かって飛び立つ本物。やばいです。アガります。

Photo: 小原啓樹

部屋の中には重要そうなパーツがたくさん…。

ちょうどいいので、ここで「SORATO」が活躍するであろう「Google Lunar XPRIZE」のミッションをおさらいしておきましょう。

(1)月面に純民間開発ロボット探査機を着陸させる。(2)着陸地点から500m以上移動する。(3)高解像度の動画や静止画データを地球に送信する。

この3つです。

「SORATO」に通信用のアンテナが装備されていて、スマホと同じ2.4GHzを使って着陸船にデータを送信するそうです。このあたりは「HAKUTO」をバックアップするau/KDDIの高度なモバイル通信技術が生かされるはず。

状況の見えない月面での作業において、通信は生命線ともいえます。ミッション成功の鍵の1つは、間違いなくここにあるでしょう。

そして、ミッションの成功が「宇宙を人類の生活圏にする」というビジョンに向けての次なる一歩へとつながるわけですね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました