クルマがスマホ化する時代ポルシェジャパン社長に聞く

どんどん時代が流れていきます。色んな面がが進化していきます。

 「ポルシェにとっては、過去20年より、この1、2年の変化の方がずっと大きい」

 ポルシェ ジャパンの七五三木(しめぎ)敏幸社長はそう断言する。

 自動車業界は、EV(電気自動車)と自動運転という2つのイノベーションによる変化を迎えている。時代の変化と無縁な企業はなく、ポルシェもまた例外ではない。ポルシェといえば自動車好きのための車であり、EVや自動運転の波は一般車より緩やかであるようにも思えるが、七五三木社長の危機感は決して小さなものではない。

 EV・自動運転時代に向けて、ポルシェはどのような企業になろうとしているのだろうか?

未来永劫「スポーツドライビング」を提供するために

 「お客様はなぜポルシェを選ぶか、おわかりになりますか?」

 七五三木社長はそうこちらに問いかけた。

 「走りが好きだ、という方もいらっしゃいます。ハードウェアの精密さ、精緻な組み上げを評価するところもあるかも知れません。実際、お客様の平均年齢層は高めです。『クラシック』と呼ばれる、1964年からの涙目型のヘッドライトに愛着を持っていらっしゃる、愛好家の方は多数いらっしゃいます。ビジネス的にいえば、そうしたニーズから逸脱しない方が得です。『水平対向エンジン以外がポルシェじゃない』と言った方が得なのかもしれない」

 とはいいつつ、ポルシェはそうは思っていない。だからこそ、新車が発表されるたびに新しい要素が生まれる。ポルシェによるEV最新車種「パナメーラ 4 E ハイブリッド」は、その名の通りプラグインハイブリッドとなり、モーターだけでも駆動する。ポルシェサウンドを伴わないポルシェでもあり、「ポルシェが電気自動車なんて……」という声もある、という点を、七五三木社長は否定しない。だが、である。

 「プラグインハイブリッドだと、初速は考えられないくらい速い車になります。加速が続くと電気はどんどんトルクが落ちてくるので、その先はエンジンで。ガソリン車で一番速い911とパナメーラを比べると、100km/hに到達するまでの距離は、パナメーラの方がちょっと速いんですよ。ポルシェとしてヒエラルキーの一番上のものがプラグインハイブリッド。

 他社との差別化がここかな、と思っています。もちろんガソリンエンジンの車もお好きですよね? ポルシェにもいろいろな車があります。その中から、お客様はお好きなポルシェを選んでいただければいいんです。でも……」

 七五三木社長は言葉を切ってこう続ける。

 「ある時ある国、あるマーケットで、お好きな車が乗れない時期がやって来ます。ガソリン車の、昔と同じポルシェに乗れない時期が来るかもしれない。その時にも我々には、規制の中で『ポルシェというスポーツカー』をオファーする義務があります。申し訳ありません、乗れません、では済まされないのです。これが『サステナブルである』ということです。

 我々がやらなければいけないのは、いかなる状況でもスポーツカードライブを、パワートレインの種類に関係なく提供し続けることなんです。馬車から自動車の過渡期には、どちらがいいのか、という比較論がありました。そこで馬を選ぶ方はいたわけですが、今はもう馬に乗っている方はいらっしゃいません。でも、乗馬クラブにいけば馬には乗れるわけです。そうして、馬の良さが生き残っている。

 ガソリンエンジン車が公道を走れなくなる時が来るかもしれません。でも、ポール・リカールやシルバーストーンといったサーキットではずっと走れます。趣味としてお持ちいただくぶんには、ガソリン車とEVは共存できるんです。そのためには、パーツなどもしっかり長く供給する必要があるでしょう。そこで、弊社は長い歴史があります。世界一どころか宇宙一だと思っています」

 すなわち、ポルシェがポルシェであるアイデンティティーは「スポーツドライビング」にあり、ということだ。

 「ポルシェは、トップからすべて、車としてはすべてがスポーツカーです。具体的にはどういうことかというと、前後50:50の重量配分で、ワクワクする走りをご提供できる、ということです」

 すなわち、ガソリンエンジンがハイブリッドになり、さらに完全なEVの時代が来たとしても、ポルシェが作るのはスポーツカーであることに変わりはない。時代や市場の要請に合わせてカイエンのようなSUVや4シーターのパナメーラもあるが、どの車種でも提供する根本的な価値は変わらないし、これからも変えるつもりはない。

 ハイブリッド車の投入もEVも、最終的には「スポーツドライビングの価値を顧客に提供する」ことが目的であり、そのために作られたものになる。どんな時代になってもスポーツドライビングの価値を提供することが、同社の軸なのだ。

 では、そのさらに先の未来を七五三木社長はどう見ているのか。

EVポルシェはインテルMacだ!?

 EVの時代になっていくと、自動車の製造は大きな変革を迫られる。部品点数が減り、モーターやバッテリーなどの部品が共用化され、本格的な「コモデティー化」の時代がやってくる。スマホになって携帯電話から個性が失われたように、自動車も「違うのはボディーとブランドだけ」になる可能性がある……と指摘されることは多い。そこにポルシェはどう対応して行くのだろうか。

 「独自のものを作ればいいのですが、そうすると非常にコストが高くなります。ブランドとして我々がどうすべきか、を決めなければいけません。非常に危ないのは、その際にポルシェのアイデンティティーが崩れることです。本当は、コストの積み上げで製品を作ってはいけないのですが、そうせざるを得ない時が来るかもしれません。自動車メーカーとして重要なのは、セールスとマーケティングと最終クオリティーのコントロールです。しかしポルシェはそれ以外の部分に注力します。結果コストは上がる可能性がありますが、我々にはそれを正当化するだけの自信があります。車に自信があるからです」

 そのための技術開発ももちろん行なっている。車のためのソフトウェア、というと自動運転や車内エンタテインメントなどが思い浮かぶが、ポルシェはあくまで「走り」にこだわり、走行制御などのソフト開発に注力してきた。操縦性・走行性で差別化することは、ポルシェの「スポーツドライビング」へのこだわりそのものである。

 そうした時、「ポルシェがEVなんか作って」という声は小さくなる、と七五三木社長は確信している。

 「ジョブズがアップルに戻り、MacのCPUをインテルに変えた時、ものすごい反応がおきましたよね? 中には『あんなのに変えやがって』という方もいた。OS Xが出た時もそうです。『こんな使いづらいものを誰が使うんだ?』と言われた。でも、1年後にはみなさんの声も変わっていきましたよね。そのときにみんななぜ許したかというと、Macそのものの魅力が高くなったからです。OSもそうですよね。そこでMacにこだわった人がいたのと同じようなこだわりを、我々は車で出せると思っていますし、お約束できると思っています」

ポルシェであってもスタートアップと同じ働き方が必須に

 とはいえ、自動車業界は、今後10年で大きく変わるのは間違いない。その波の中では、ポルシェ ジャパンも変わっていかざるを得ない。

 「これまでと同じ顔でいいのか? 車に対するちょっと違う要望があるんじゃないですか? ということは考えていかなくてはいけません。98年からの10年間での解決しなければいけない課題と、2008年からいままでの課題、そして今日から後の課題とでは、まったく違います。そこに現在いる人員で対応していく必要があります。自動車がネットワーク化され、スマートモビリティー化するなど、用途もニーズも多様化します。過去の命題を軽やかに解決していた人々でも、新しい課題には頭を抱えてしまうんですよ。

 たとえば、いきなり充電設備の敷設を担当しろ、と言われてもできませんよね。必要な情報を知らないんですから。今の人員のうち、3割・4割・5割が、まったく新しい知識を求められるようになる。すなわち、ポルシェ ジャパンという会社であっても、スタートアップと同じような働き方をせざるを得なくなるんです」

 七五三木社長は、今後に大きな危機感を持ちつつ、「それでも、ポルシェはみなさんの期待に100%応え続ける」という。スポーツドライビングの価値を提供する、という軸はぶれないためだ。そのためにどのような組織と知識が必要なのか。その変革は大変なものだが、なんのために変化すべきなのか、ということをぶらさないことが重要なのだ。

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