宇宙飛行士のVR訓練にゲーム開発のノウハウが活かされていた!

そうなんですね、色んなとらえ方あるんですね。

 ゲーム開発者と米国航空宇宙局(NASA)が力を合わせて、宇宙飛行のトレーニングツールを作っている……と聞いて、「えっ、そんなことあるの?」と驚く人もいるかもしれない。しかしそれは確かな事実なのだ。

 アメリカ・サンフランシスコで開催中のゲーム開発者向けカンファレンス“GDC 2018”初日、“Co-op for Humanity: Collaborative Virtual Reality for Astronaut Training”と題するセッションにて、その詳細は語られた。登壇したのは、NASAで商用テクノロジーを活用した研究を行っているマシュー・ノイズ氏、オーストラリアのディベロッパー“Opaque Space”のジェニファー・ショイラー氏、ボーイング社のリードアーティスト、ジェイク・オッパーマン氏だ。3名は協力しながら、VRのトレーニングツールを手掛けている。

 NASAと言えば、言わずと知れた宇宙航空分野のスペシャリスト。世界最高峰のテクノロジーを持っているのは間違いないのに、なぜゲーム業界のテクノロジーを使うことにしたのだろうか。

 これについてノイズ氏は、そもそもNASAやその他の公共機関の活動目的は、その時点で商用技術が取り組んでいない課題を解決し、同時に技術革新を促し、その技術を民間に下ろしていくことにあることを説明。そしてVRに関しては、ジョンソン宇宙センターで利用されたりはしたものの、この20年くらいはあまり進展がなかったという。

 少人数かつ予算の限られた分野では、最新技術を用いて、ハイクオリティーなものを作ることがなかなかできないという問題もあった。そこで目を付けたのが、普及が進んだ商用VRヘッドセット。ならば民間企業とともに取り組んでいこうと、ゲーム業界のクリエイターたちと組むことにした。

 1年ほど前にノイズ氏と出会ったというショイラー氏は、宇宙飛行のVRトレーニングツール作りに、自身のゲームデザイン経験が活かせると感じたという。ゲームなら、楽しみながらトレーニングできるし、ナラティブ要素を持ち込むなどすれば、スキルを学ぶ以上の体験を生み出せる……と考えたそうだ。

 オッパーマン氏は、ボーイングではずっと前からVRに取り組んでいたが、VRヘッドセットの登場により、ゲーム開発の知見を使わせてもらうようになったと説明。VRヘッドセットの普及によって、さまざまな業界の取り組みが重なるようになったのだ。

 では、実際にどのようなツールが作られたのか? ノイズ氏が紹介したのは、ロケーションベースのVRトレーニングツール。写真を見ればわかるように、HTC ViveやNVIDIAのGPU、Unreal Engineなど、ゲームの分野ではおなじみの製品が使われている。

 ノイズ氏はここで、リアルとバーチャルのあいだである“Hybrid reality”を目指していると語る。VRは、視覚的にリアルな体験をする際に役立つが、“8時間のミッションに取り組んだときの腕の疲れ”のような、肉体の状況までは再現できない。そこで3Dプリンタを使って、実際に宇宙で使用するアイテムのレプリカを作り、「月ならこの重さ、火星ならこの重さ」と重りを入れ換えることで、状況に応じたトレーニングに活かしているとのこと。

 トレーニングは、段階を追ってリアルに近づけていくものだ、とノイズ氏。まずはVRを使い、安価でできるトレーニングを行い、つぎにツールのレプリカなどを利用したHybrid Realityのトレーニングを実施。つぎにMRを利用し、最後には実際のスペースステーションで訓練を行うのだと説明した。

 つぎにショイラー氏が紹介したのは、“LUNAR MISSION”というプロジェクト。6人のプレイヤーが宇宙船や月面で作業に取り組むという訓練用VRコンテンツで、ショイラー氏はゲームデザインやビジュアルデザインに携わっているとのこと。「キレイに見せるのは、ゲーム業界の得意とするところ」だとか。

 オッパーマン氏は、ボーイングの宇宙船“CST-100スターライナー”のVRトレーニングツールを紹介。このツールのデモを製作する際は、公的に発表されている情報(Googleで検索すれば見つかるレベルの情報)しか使えないという制約があったために、苦労したという。また、3Dで作るべきもののほとんどが実在していなかったので、Google Imageで資料を探したりしたのだとか。

 なお、ノイズ氏によると、ゲーム開発の知見を活かして作ったツールを40人の宇宙飛行士に試してもらった結果、「いままでで、いちばんいいトレーニング体験だった」とフィードバックがあったという。

 そもそもゲームとは、制約のもとで技術をマスターすることを楽しむもの。そしてトレーニングは、大事な技術をマスターするためのもの。もともと近しいものだったのだから、相性がいいのは明らかというわけだ。

 今後は、「ゲームのスキルツリーのような仕組みを使って進捗管理をしたい」、「生体認証やアイトラッキングなどでパフォーマンスを測定したい」と展望を語る登壇者たち。この記事を読んで、「自分も宇宙飛行のトレーニングに携わりたい」と思ったゲーム業界の皆さん、チャンスはあります。NASAには、中小企業を支援する(研究開発を委託する)プログラム“SBIR”や“STTR”がある。自分たちの技術を、人類の宇宙進出のために役立てよう! と思う開発者は、手を挙げてみてはいかがだろうか。

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