試験飛行始まる、100 人乗せて火星へ  スペースXの超大型ロケット「BFR」

いよいよ、来るか楽しみですね。

アメリカの実業家、イーロン・マスク氏の火星移住計画。そもそもなぜ移住なのか、どこまで本気なのかと懐疑的な目もあるなか、計画のカギとなる宇宙船の、具体的なテストスケジュールが発表されました。どのような乗りものになるのでしょうか。

旅行ではなく「移住」のワケ

アメリカのテキサス州オースティンで2018年3月9日から18日まで開催された音楽とテクノロジーの祭典「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」にて、宇宙開発企業 スペースX社(アメリカ)のイーロン・マスクCEOは、火星移住にも利用できる超大型ロケット「BFR」の試験打ち上げを2019年前半にも開始すると発表しました。エアバスの超大型旅客機A380よりも与圧空間が広いとされる「BFR」は、さまざまな利用用途が想定されています。

そもそも、マスク氏はなぜ科学的な「火星探査」ではなく、多数の人々が住居を構える「火星移住」を目指しているのでしょうか。火星はわずかながら大気が存在していることや、大量の水の存在が期待されていることから、太陽系において人類の移住できる可能性が最も高い惑星だと目されています。しかし現時点での科学技術力では、火星移住は決して楽な計画ではありません。

一方マスク氏は、「人類の文明を存続させるため」という興味深い観点から火星移住が必要だと主張しています。彼はこれまでも、AI(人工知能)の暴走や核兵器を利用した第三次世界対戦の勃発により、人類が地球に住めなくなる未来がありうると繰り返し指摘してきました。そしてそのような未来に備えて、火星を人類が生活できる空間に整える「テラフォーミング」が必要だと主張しています。

マスク氏は火星への移動手段だけなく、2016年にはSNSサイト「レディット(Reddit)」にて、火星地表に炭素繊維と三角形のガラスパネルでできたドームを作成し、気温や大気成分の安定を図る計画、さらには大量の自律稼働可能なロボット「ドロイド」を派遣する計画などについて語っています。将来地球に住めなくなるとは考えたくありませんが、その保険としてマスク氏は火星移住を構想しているのです。

この火星移住計画のカギとなるのが、冒頭の「BFR」です。

計画成否のカギ「BFR」、100人乗っても大丈夫?

マスク氏と彼が率いるスペースXが計画している「BFR」は、全長106m、幅9mと極めて巨大なロケット。その大きさは、アポロ計画で人類を月面に運んだ「サターンV」ロケットの110mにせまります。またロケットは2段式で、上段に位置する宇宙船の大きさが全長48mと、ロケットの半分近くの割合を占めています。

ロケットの下段に相当するブースターと宇宙船は、同社の「ファルコン9」や「ファルコン・ヘビー」ロケットのように、エンジン出力により自力で地面やドローン船へと着陸し、再使用が可能です。このように繰り返し使用することで、「BFR」の打ち上げ費用はわずか700万ドル(約7億円)未満になるとされています。

宇宙船部分には人工衛星などの大型ペイロードを積み込め、低軌道なら最大150tの打ち上げが可能です。さらに宇宙船にはなんと100人近くを搭乗させることもできます。これが、将来の火星移住計画の要となります。そのほか、月への往復や低軌道の宇宙ステーションへと補給任務を行う、などのミッションも想定されています。

火星はどこまで本気? BFRはもう少し現実的な使いみちも

宇宙船に100人が搭乗すると聞くと、従来の小さくて狭い宇宙船からは少し想像しにくいかもしれません。しかし、「BFR」は825立方メートルという巨大な与圧部分を40区画の「キャビン」として区切り、キャビンごとに3人から4人が搭乗できます。ちなみに、単純比較はできませんが、冒頭で述べたエアバスA380機はエコノミークラスのみのモノクラスだと、最大853席の設定が可能だそうです。

さらに同時に搭乗員の生活必需品を搭載することで、100人が無事に火星へとたどり着けるように設計されています。

「BFR」は宇宙開発だけでなく、地球上の2地点を結ぶ超高速交通手段としての計画も用意されています。これは「BFR」が宇宙空間を経由して目的地へと飛行することで、地上のあらゆる地点を30分前後でつなぐというもの。たとえばニューヨークから東京までは37分で移動できるとしています。

従来の飛行機では12時間以上かかる東京からニューヨークへの移動がわずか37分で可能になれば、ニューヨークへの日帰り旅行も可能になるでしょう。さらにそのチケットの価格についても、マスク氏は「従来型旅客機のエコノミークラスと同じくらいになる」と発言しているのです。

マスク氏が語る火星移住や地球上の飛行は、ともすれば現実味の薄い、大言壮語だと捉えられることもあります。しかし彼が2002(平成14)年にスペースX社を立ち上げた時、民間宇宙開発会社が当たり前のようにロケットを打ち上げ、さらにその再使用までをも実現すると誰が予測できたでしょうか。著者(塚本直樹:IT・宇宙・ドローンジャーナリスト)は、彼の語る夢にかけてみる価値は十分にある、と考えています。

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